紛争の内容
依頼者はトラックドライバーであり、残業が恒常化していたにもかかわらず、残業代がほとんど支払われていませんでした。依頼者は、会社でタイムカードを押したり、日報を提出していたり、チャート紙(タコグラフ)を作成したりしていましたが、会社に指示によって勤務時間を短くするように、実情と異なるものを作り続けてきました。そのため、一般的に、信用性(証明力)の高い資料を用いて未払残業代請求をしていくことが困難でした。
交渉・調停・訴訟などの経過
客観的資料を使って残業代請求をすることが困難であったため、Googleタイムラインを使って、依頼者の過去の移動実績を全て拾い出して、実情に即したタイムカード類似のものを作成していきました。
また、会社は、内容に重大な疑義のある固定残業代を定めた就業規則を定めていました。そこで、当該固定残業代規定が無効であることを前提として、過去の給与支給内容を踏まえて、残業代計算の基礎となる時給・既払扱いの残業代を全て算定し直しました。
これらの資料を基に、本来あるべき労働時間・時給による未払残業代の計算をしていきました。
もっとも、会社側は、固定残業代についてのこちら側の主張を全面的に認めながらも、会社が保有している日報を基に計算するのでなければ、残業代の支払いを認めないとの主張をしてきました。
あくまで、一般的に業務の一環として作成された信用性の高い客観的証拠資料は、タイムカードや日報のみであり、これらを逐一Googleタイムラインのみならず、各運送注文書と全て対照していかなければなりませんでした。しかし、このような主張をして訴訟の中で争っていくとなると、年単位の時間が必要となります。依頼者としても、そこまでの時間をかけることは望んでいませんでした。
そこで、Googleタイムラインを基にすると日報の正確性に重大な疑義があるため、日報そのままによる計算は認められないものの、あくまで交渉ということで解決策を模索していきました。
本事例の結末
裁判所での手続によらず、訴訟になった際の労働者・使用者それぞれのリスクを検討し、依頼者が十分に納得できる内容での合意をすることができ、未払残業代を一括で支払ってもらうことができました、
本事例に学ぶこと
タイムカード、日報、チャート紙(タコグラフ)という、一般的に残業代請求で証拠として用いられ、その信用性が高いと扱われる証拠資料がなくとも、何か別の方法からアプローチしていくことも考えられます。そして、そのアプローチ内容が、合理的なものと説得力があるものならば、会社側も未払残業代支払いに応じてくる場合もあります。
タイムカード等がない場合であっても、重要な資料があるかもしれません。ぜひ一度、弁護士に相談して下さい。
弁護士 平栗丈嗣