医師の残業は長いと言われており、残業代が支払われていないというケースが往々にしてあります。そのため、残業代請求をして頂くことをお勧めしますので、今回は、想定される病院側の反論に対する対処方法と、残業代の請求手順について解説をさせて頂きます。
病院が固定残業代を支払っていると主張しても残業代は請求できる。
固定残業代とは、簡単に説明するとすれば、使用者が、一定の労働時間数に見合う残業代を決めて、その時間の残業をしようとしまいと支払う残業代のことをいいます。これまでに支払っている給与には固定残業代が含まれているので、残業代は支払わないと病院側が主張することがあります。
固定残業代については、
・固定残業代とそれ以外の給与が明確に区分されて合意がされ、
・労基法所定の計算方法による残業代の額が固定残業代の額を上回るときはその差額を支払うことが合意されており、かつ
・実際に、労基法所定の計算方法による残業代の額が固定残業代の額を上回ったときは、その差額を支払っている
場合に、固定残業代を割増賃金の一部または全部とすることができるとされています。
したがって、病院側にこれまでに支払った給与に固定残業代が含まれていると言われても、上記の要件を満たさない場合、固定残業代の合意が有効であるとは認められず、残業代を請求することができます。
年俸制であっても残業代は請求できる。
年俸制だから残業代を支払わないと主張する使用者もいますが、固定残業代の場合と同じように、残業代として支払われる額が明示されていることが必要と考えられます。
裁判例の中には、年俸制について、「被告における賃金の定め方からは、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず、そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり、どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから、被告におけるこのような賃金の定め方は、労働基準法37条1項に反するものとして、無効となるといわざるを得ない」と判断したものがあります(創栄コンサルタント事件・大阪地裁平成14・・5・17労働判例828・14)。
したがって、年俸制であっても、残業代を請求できる可能性があります。
病院側が、労働者が管理監督者であると主張しても、残業代を請求できる。
残業代を請求した時に病院側が、医師が管理監督者に該当するので、残業代は請求できませんと主張することがあります。たしかに、労働基準法第41条第2号により、管理監督者には、労働時間や休日に関する労働基準法の規定が適用されず、残業代(時間外手当)に関する規定も適用されません。
しかし、管理監督者については、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべき」とされています(昭和63・3・14基発150号)ので、この要件に該当しない医師は管理監督者にはあたらず、残業代を請求することができます。
裁判例においても、①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること、②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、及び、③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること、という要件が、管理監督者に該当するために必要な要件として示されたことがあります(育英舎事件―札幌地裁平成14年4月18日判決 労働判例839号58頁)。
また、アルバイト従業員の採用、時給額、勤務シフト等の決定を含む労務管理や店舗管理を行い、事故の勤務スケジュールも決定しているファーストフード店の店長について、営業時間、商品の種類と価格、仕入先などについては本社の方針に従わなければならず、企業全体の経営方針へ関与していないとして、「管理監督者」には該当しないと判断した裁判例があります(日本マクドナルド事件 東京地裁平成20年1月28日 労働判例953号10頁)。
ゆえに、病院側が管理監督者であることの主張をしても、実際には管理監督者であるという認定はできない可能性がありますので、残業代請求を行うことができる可能性があります。
未払い残業代を請求する手順
残業代の計算
残業代は、賃金単価×割増率×時間外労働の時間数で計算します。
そして、時間外労働の時間数を把握するための証拠としては、
・シフト表
・タイムカード
・勤怠記録、業務日報
・電子カルテなどの記録
・パソコンのログインログオフ記録
・入館や退館の記録
・業務で利用するメールの送信履歴
・タクシーで帰宅した際の領収証
・交通ICカードの記録
・個人的に作成している業務時間予定表
・業務スケジュールについて詳しく記載した手帳
・病院から指示を受けたことがわかる資料(メモやメールなど)
がありますので、これらの証拠を基に時間外労働の時間数を計算します。
病院に郵便で請求書を送付
残業代の計算が完了したら、病院に対して郵便で請求書を送り、残業代を請求します。
労働審判の申立て
病院と直接交渉をしても解決できない場合は、裁判所の手続きを利用します。労働審判は、原則3回以内の裁判で終結しますので、訴訟よりも早く解決が出来ますから、利用を検討します。
訴訟の提起
証人尋問の必要があったり、病院側の姿勢が強硬である等、争いが大きそうな事件については、訴訟の提起を検討します。
まとめ
病院ではサービス残業が行われ、残業代が支払われていないということが往々にしてありますが、医師も労働者であるため、残業代を請求することができます。そのため、残業代の請求をお考えの場合は、専門家である弁護士への依頼を検討して頂くのがよろしいかと思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。