各々の会社の管理体制にもよりますが、会社規模の小さい零細企業では残業代の支払いについて明確な基準が設けられていないケースが多く見受けられます。
今回は、零細企業で勤務する労働者の残業代について解説をしていきます。
零細企業
会社はその規模により大企業、中小企業、小規模企業に分けられ、零細企業は小規模企業と同義です。
中小企業基本法は、原則、中小企業と小規模企業の区別を以下のとおり定めています。
業種 | 中小企業(下記のいずれか) | 小規模企業 | |
資本金額・出資総額 | 従業員数(常時) | 従業員数(常時) | |
製造業、建設業、運輸業、その他 | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
日本国内の企業の99%は中小企業であり、中小企業の90%弱を小規模企業=零細企業が占めています。
なお、労働者数では全体の労働者数の23%程度が零細企業で勤務する労働者ということになります。
零細企業における残業代
残業代支払いに対する認識の甘さ
労働者に対する残業代支払いの基本的なルールは会社の規模に関わらず同一ですが、経営側の知識や理解には大きく隔たりがあるといわざるを得ません。
労働者の労働時間管理は大まかでよい、サービス残業は当然行われるべきである、働き方改革は大企業だけの問題である等と考える零細企業経営者は少なくありません。
会社の規模が小さくなるほどに一人の労働者の業務に占める割合は高くなるため、仕事が増えれば必然的に個々の労働者の残業時間が多くなるということになりますが、その対価としての残業代が支払われないのであれば労働者は疲弊していくだけです。
残業代請求の可能性
勤務先において以下のような状況があれば残業代請求の可能性があります。
労働時間管理がされていない
本来、会社は労働者の労働時間管理をしておかなければなりませんが、未だにそれを行っていないという会社が稀にあります。
法定労働時間を超える残業について割増賃金が発生しますが、労働者の労働時間管理を行っていない会社ではそもそも正確な残業代の計算ができません(法定労働時間を超える残業時間が把握できない)ので、このケースでは残業代の未払いがある可能性があります。
端数の労働時間が切り捨てられている
原則として労働者の労働時間は1分単位で計算すべきものですが、会社によってはタイムカードに記録されている労働時間について、30分に満たない労働時間は切り捨てるといった方法で給与計算を行っている場合があります。
当然のことながら切り捨てられた部分も労働時間として算定されるべきものですので、このケースでは残業代の未払いがある可能性があります。
なお、タイムカードを押した後に業務を行うよう指示されるサービス残業についても同様のことがいえます。
残業代は基本給や手当に含まれている
会社から残業代は基本給や手当に含まれているから残業代は出ないという説明がされることがあります。
説明はされたものの基本給や手当にいくらの残業代が含まれているかよくわからないというケースが多いのですが、残業代の支払いはある支払いが残業代の支払いであることが給与明細の記載等から判別できる必要があるとされているため、一見して残業代がどのように支払われているかよくわからないというケースでは残業代の未払いがある可能性があります。
管理職だから残業代は出ない
同僚とほとんど変わらない仕事をしているが肩書だけ工場長とされており、工場長は管理職だから残業代は出ないといわれているというケースがあります。
確かに、ある労働者が労働基準法上の管理監督者に該当する場合、当該労働者は基本的な残業代規制の対象とならないというルールはありますが、そこでいう管理監督者は経営者と一体的な地位にあるような人物を指しますので、ほとんどの労働者は管理監督者に該当しません。
肩書は管理職であるものの労働基準法上の管理監督者の要件を満たさない労働者を名ばかり管理職といいますが、名ばかり管理職は残業代の請求をすることができますので、このケースでは残業代の未払いがある可能性があります。
残業代請求の準備
労働時間を立証する手段の確保
会社に対して残業代を請求する場合、どの程度残業を行ったかは労働者の側で立証を行う必要があるとされていますので、タイムカードに記載された労働時間と実際の労働時間が異なる場合には実際の労働時間について記録化しておく必要があります。
タイムカード上の労働時間と実際の労働時間をそれぞれメモしておく、実際の出退勤時に社内で時間がわかる形で写真撮影しておく等の方法があり得ますが、可能な限り客観的な証拠を残しておくべきです。
消滅時効期間
残業代請求には期間制限が設けられていますのでその期間が経過しないうちに会社に残業代請求をする必要があります。
現状、2020年4月1日より前に発生した残業代については2年、2020年4月1日以降に発生した残業代については3年を超えると請求をすることができなくなるとされています(より正確には会社から請求可能期間を過ぎているという主張がされた場合に請求することができなくなります)。
まとめ
今回は零細企業で勤務する労働者の残業代について解説してきました。
零細企業で起こり得る典型的な残業代の発生原因について触れましたので、ご自身の勤務先の状況や給与形態と比較してみてください。
仮に残業代発生の見込みがある場合には、一度、専門家である弁護士にご相談することをお勧めいたします。
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