勤務先で仕事をしていたところ、突然、上司から「明日から来なくていい」と言われ、どう対応してよいか分からず呆然としてしまった、という状況はないに越したことはありませんが、現実問題としてそのような事態に遭遇する可能性は否定できません。
今回は、使用者から即日解雇を言い渡された場合の対応について解説していきます。
「明日から来なくていい」の意味
上司から「明日から来なくていい」と言われた場合に、その発言の意味を自分の頭の中だけで解釈して行動することは避けてください。
当該発言を受けた従業員が自分は解雇されたものと判断して翌日から連絡なしで会社に行かなかった場合、後になって、使用者は、解雇したつもりはない、従業員が自己都合で退職した、無断欠勤を続けているのでそれを理由に解雇とした等の自身に有利な主張を行ってくる可能性があります。
発言の趣旨ごとの対応
「明日から来なくていい」と言われた場合の従業員側のベストな対応は、上司に対して当該発言の趣旨を確認することです。
即日解雇を意図したものなのか、退職勧奨を意図したものなのか、自宅待機命令を意図したものなのか、その趣旨を明確にすることから始めましょう。
回答は可能であれば書面でもらうようにしたいところですが、上司が口頭での回答にこだわるようであれば回答内容について録音をしておくことが望ましいです。
発言の趣旨が即日解雇である場合
上司が「明日から来なくていい」という発言の趣旨を即日解雇であると回答した場合、解雇通知書や解雇理由証明書の発行を求めましょう。
解雇は労働契約を使用者の側から一方的に解消する強力な手段ですので、濫用的な行使ができないよう、労働関係法規により厳格な有効要件が設定されています。
解雇通知書や解雇理由証明書は、使用者が従業員を解雇した経過や理由を記載するものですが、基本的にはそこに記載された事実関係を前提に解雇の有効性が判断されますので、後になって使用者が異なる言い分を主張しにくくするためにも、早期に使用者が主張する解雇理由を書面に残る形で明らかにさせておく必要があります。
また、従業員に解雇理由がある場合であっても、使用者は常に即日解雇ができるわけではありません。
通常、使用者が従業員を解雇しようとする場合には、解雇の30日前に従業員に対して解雇を予告するか、解雇までの予告期間が30日に満たない場合には不足日数に対応する解雇予告手当を従業員に対して支払う必要があります。
事前の予告なく、また、解雇予告手当も支払わず、使用者が従業員を即日解雇する方法もなくはないのですが(解雇予告除外認定申請)、災害による事業継続不能や従業員の重大または悪質な行為等を原因とする解雇を要件としていますので、あまり一般的ではありません。
解雇予告手当の支払いがない場合には、その支払いをしない理由を上司に確認しましょう。
発言の趣旨が退職勧奨である場合
上司が「明日から来なくていい」という発言の趣旨を退職勧奨であると回答した場合、退職勧奨に応じるべきか否かを検討しましょう。
退職勧奨は使用者から従業員に対して任意の雇用契約の解消を求める事実行為です。
従業員が使用者の退職勧奨に応じる法的義務はなく、反面、使用者は不法行為に該当しない範疇であれば自由に退職勧奨を行うことができます。
現時点で退職するつもりはないのであれば、その旨を明確に上司に伝えましょう。
一度、退職勧奨に応じない旨を明らかにした従業員に対して執拗に退職勧奨を行うことは不法行為を構成しうるため、使用者の行為を牽制する意味でも自身の意思はしっかりと伝えておく必要があります。
逆に退職しても構わないと考える場合には、退職条件はどうなるのかを確認しましょう。
使用者として退職勧奨を行う場合には多少なりとも有利な退職条件を用意していることがあるため、退職するにしても有利な退職条件を引き出せないか交渉して損はありません。
発言の趣旨が自宅待機命令である場合
上司が「明日から来なくていい」という発言の趣旨を自宅待機命令であると回答した場合、自宅待機命令の根拠について確認しましょう。
業務上の必要に基づく自宅待機命令なのか、懲戒処分としての自宅待機命令なのか、何らかの懲戒処分を行う前提としての自宅待機命令なのかにより、有効性要件等が異なってくる可能性があります。
自宅待機命令が有効である場合でもその間の賃金の取扱いについては争いがあります。
基本的には、自宅待機命令に伴う欠勤は従業員の都合による欠勤ではないため、自宅待機期間中、使用者には賃金の支払義務があります。
他方で、就業規則等において、懲戒処分としての自宅待機命令については、出勤停止と同視し、待機期間中の賃金は支給しない等の定めがある場合や従業員の非違行為の内容が著しく再発防止等の観点から緊急避難的に従業員を自宅待機とせざるを得ない等の場合には、使用者の自宅待機期間中の賃金支払義務が免除される場合もあります。
即日解雇された後の対応
上司の「明日から来なくていい」の発言の趣旨が即日解雇である場合、使用者としては解雇を前提とした離職手続を進めていくことになります。
解雇後、従業員の側から使用者に対して解雇の撤回を求めたとしても、使用者として自身の行った解雇という判断をすぐに覆すことは少ないため、裁判手続における解決となるケースが多くなっています。
裁判手続では、使用者の主張する解雇事由が労働契約法上の要件(解雇に該当する合理的理由の存在及び解雇を行うことの社会的相当性)を満たすかが主たる争点となり、その判断は、使用者が解雇時または解雇後に発行した解雇通知書や解雇理由証明書の中でどのようなことが解雇理由として触れられているかを前提に行われます。
使用者が主張する解雇事実がそもそも存在するか、存在しない場合には解雇の合理的理由がないということになり、存在する場合には当該事実が解雇に相当する程度の重みを持つものなのかの判断に移ります。
解雇は従業員の生活基盤を奪うものであるため、使用者にとっての最終手段でなければならないとされており、たとえ従業員に問題行動があったとしても解雇をもって対するのが相当であると判断されるケースは多くありません。
従業員側では、使用者が事実自体を誤認していること、事実自体は存在するとしてもその評価を誤っている(過大評価している)こと、同様の問題行動を起こした他の従業員は解雇されておらす処分の均衡が保たれていないこと等を主張していくことになります。
まとめ
今回は、使用者から即日解雇を言い渡された場合の対応について解説をしてきました。
突然のことでパニックになってしまいがちな状況ですが、使用者側は自身に不利な事情を伏せた上で対応してくることが多いため、労働者の側から使用者の意図等についてきちんと確認をしていくことが重要となります。
場合によっては使用者側と争わざるを得ない状況になることもあり得ますが、労働者の側が泣き寝入りをする必要はありませんので、自分だけで対応することが難しいと感じた場合には専門家である弁護士に相談していただくことをお勧めいたします。
また、労働分野について専門チームを設けており、ご相談やご依頼を受けた場合は、労働専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。