こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
管理職になり残業が増えたものの、管理職だからという理由で、残業代が支払われないという悪質なケースがあるようです。
管理職だからという理由で残業代が支払われないことは、違法ではないのでしょうか。
結論からいうと、労働基準法の「管理監督者」にあたらない、いわゆる「名ばかり管理職」であれば、残業代が支払われないのは、違法となります。
この記事では、「管理監督者」とは何か、「名ばかり管理職」との違いは何かを説明した後、名ばかりの管理職が残業代を請求するための手続について、わかりやすく解説していきます。
「管理監督者」とは
「管理監督者」の定義
「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者をいいます。
「管理監督者」にあたるかは、業務態様を実質的に見て判断されることになります。
その判断の際には、厚生労働省が掲げる下記の4つの項目が参考になります。
2 労務管理の責任権限があること
3 出退勤や勤務時間の厳しい制限を受けないこと
4 地位にふさわしい待遇を受けていること
「管理監督者」というためには、上記のような4つの項目に当てはまる必要があると考えられるため、管理職という役職に就いているからといって、直ちに「管理監督者」にあたるというわけではありません。
「管理監督者」と「名ばかり管理職」との違い
では、上記の4項目に該当する「管理監督者」と、それ以外の管理職との違いは、どこにあるのでしょうか。
その違いの一つとして、労働基準法上、残業代の支払いをする必要があるかどうかという点があります。
労働基準法における労働時間、休憩及び休日に関する規定は、「管理監督者」には適用されません。
したがって、「管理監督者」には、残業代(深夜割増賃金を除く)が発生しないこととなります。
これは、「管理監督者」が経営者と一体的な立場にあり、所定の労働時間を超えて就労をすることもやむを得ない職責を負っていること、および、その分、賃金や勤務態様の面などで他の一般労働者よりも優遇されていることとから、残業代が支払われずとも保護に欠けるところはないと考えられているためです。
これに対して、「管理監督者」の上記4つの項目に該当しないにもかかわらず、管理職という肩書が与えられているために、残業代が支払われない場合があるようです。
いわゆる「名ばかり管理職」と呼ばれるケースです。
「名ばかりの管理職」に残業代が支払われない理由としては、会社が管理職に残業代を支払わないといけないことを知りつつ人件費の節約のために支払わない場合と、管理職であれば残業代を支払う必要がないと会社が誤解している場合の2パターンがあると考えられます。
いずれにせよ、「管理監督者」にあたらない管理職であれば、その者に対して残業代が支払われないことは、明らかに労働基準法に違反することとなります。
したがって、「管理監督者」に当たるかどうかは、残業代の請求が認められるかどうかという点で重要になりますので、ご自身が「管理監督者」に当たるかどうかは、上記の4つの項目を基準として、個別具体的に検討する必要があるといえます。
以下では、管理監督者ではないと判断された裁判例と、管理監督者にあたると判断された裁判例を、参考に見ていきたいと思います。
管理監督者性が否定された裁判例
1 静岡銀行事件(静岡地判昭和53年3月28日)
「銀行支店長代理」という肩書であったものの、出退勤の自由がなく、部下の人事や銀行の機密事項に関与することもないとして、管理監督者にはあたらないと判断されました。
2 レストラン・ビュッフェ事件(大阪地判昭和61年7月30日)
「レストラン店長」という肩書であり、従業員を統括し、採用に一部関与していたものの、出退勤の自由はなく、職務内容がコック、ウエイター、レジ、掃除など全般に及んでいたとして、管理監督者にあたらないと判断されました。
3 プレナス[ほっともっと元店長B]事件(大分地判平成29年3月30日)
弁当チェーン店の「店長」という肩書であり、店長として一定の裁量は有していたものの、実態として店舗運営や労働時間に関する裁量は限定的であり、賃金額及び長時間労働が常態化していた実態からして、管理監督者にはあたらないと判断されました。
管理監督者性が肯定された裁判例
1 センチュリーオート事件(東京地判平成19年3月22日)
「営業部長」という肩書で、営業部の従業員の管理業務を担当し、代表者と工場長に次ぐ高い金額を受け取っており、自らもタイムカード打刻を義務付けられていたものの、遅刻・早退等を理由に基本給が減額されることとはなかったとして、管理監督者にあたると判断されました。
2 ピュアルネッサンス事件(東京地判平成24年5月16日)
「取締役」という肩書で、経営の方針を決める会議に出席するなど、会社の意思決定に参画し、従業員の労務管理を行う権限を有し、自らの労働時間については広い裁量を有し、給与の面でも他の従業員と比べて厚遇されていたとして、管理監督者にあたると判断されました。
小括
上記で管理監督者に当たらないと判断された裁判例と、管理監督者に当たると判断された裁判例を、参考に見ていきました。
管理監督者性については、業務態様などを基に、個別具体的に判断されていることがお分かりいただけたと思います。
では、ご自身が「管理監督者」にあたらない管理職であると考えられる場合に、会社に対して、残業代を請求するためには、どうすればよいのでしょうか。
以下で、残業代の請求をするための手続について、解説していきます。
「名ばかり管理職」が残業代を請求するためには
⑴会社と協議する
未払い残業代の請求権は、3年で時効消滅してしまいます。
したがって、未払いの残業代を請求する場合、退職後、速やかに内容証明郵便を発送することが好ましいといえるでしょう。
労働条件や残業時間について、下記の資料をもとに正確な残業代を計算し、会社側に請求・交渉していくことになります。
また、ご自身が「管理監督者」に当たらないと判断されるためにも、下記の資料を証拠として集めておくことが有意義と考えられます。
・就業規則
・賃金規程
・タイムカードや出退勤記録など
⑵協議がまとまらない場合、労働審判・訴訟提起
会社が協議による交渉に応じない場合には、労働審判もしくは訴訟による解決を目指します。
労働審判の場合、裁判所に申立を行い、原則として3回以内の期日で審理が終結するため、早期の解決が見込まれます。
もっとも、双方の言い分の争いが激しい場合などには、審判から民事訴訟に移行する決定がなされることもあります。
上述してきたとおり、一般的に管理職と言われる立場でも、名ばかり管理職として、残業代の支払いが認められるケースがあります。
管理監督者に当たるかどうかの判断が難しいケースもあると考えられますので、専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。
まとめ
名ばかりの管理職の未払い残業代請求は、難しい判断が必要なケースもありますので、ご自身で会社と交渉をしても、会社側が責任を認めずに応じないことも多くあると考えられます。
名ばかりの管理職であるにもかかわらず、残業代が支払われていないと感じたときには、弁護士に相談することが大事だといえるでしょう。
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