プログラマーという職業においては、長時間労働が恒常的に発生することが往々に見られます。その上、裁量労働制を採用しているとの理由で、残業代が支払われないケースも散見されます。しかし、このような会社の主張を鵜呑みにしてはいけないケースについて紹介していきます。
裁量労働制
裁量労働制とは
労働の遂行の仕方について労働者の裁量の幅が大きく、その労働時間を一般労働者と同様に規制することが、業務遂行の実態や能力発揮の目的から見て不適切である専門的労働者については、労働の量よりも質ないし成果によって報酬を支払われるのにより適している場合があります。
そこで、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者については、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度が設けられました。これが裁量労働制になります。
「裁量労働制」という言葉からも分かるように、裁量労働制が採用された労働者については、その労働者の裁量によって自由に働いてもらうことで、専門的知見を活かした仕事をしてもらったり、クリエイティブな仕事をしてもらったりして、縛られないことによる大きな成果が期待できます。
裁量労働制が採用されると、実際の労働時間が短かろうと長かろうと一定時間は勤務したものとみなされるため、残業代は原則発生しないことになります。
適用対象業務
専門業務型裁量労働制
労働基準法第38条の3第1項第1号において、裁量労働の対象とされる業務が次のように定められています。
「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」
これを受け、具体的に対象業務が、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項と、同項第6号により厚生労働大臣が指定する業務を定める平成9年2月14日労働省告示第7号が定められています。
プログラマーに関連するものとして、下記が挙げられます。
・情報処理システムの分析又は設計の業務
・事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務
・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
裁量労働制が採用されている場合の残業代請求の方法
裁量労働制の要件を満たしていない=裁量労働制の主張は無効になる
業務内容
裁量労働制を導入することで、残業代の支払いを免れようとする会社も存在します。そこで、上記要件を実質的に満たしているか検討する必要があります。
例えば、専門業務型裁量労働制のうち「情報処理システムの分析又は設計」であるといいながら、単純に会社の詳細な指示のもと、プログラミング業務を行っているというケースが考えられます。
この場合、そもそも裁量労働制がとられているとはいえず、残業代請求をすることで、会社の時間外労働部分についての残業代支払義務が認められる可能性があります。
裁量がないこと
仮に、裁量労働制の業務にあたるとしても、始業終業時間が定められていたり、業務時間が定められていたり、業務量が膨大で労働者の裁量の下労働時間を決めることなどできなかったりする場合、労働者の裁量のもと実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したとは到底言えない場合があります。この場合にも、会社の時間外労働部分についての残業代支払義務が認められる可能性があります。
システムエンジニア(SE)について、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないとした裁判例
エーディーディー事件・京都地判平成23年10月31日
本事件は、会社が従業員に対して損害賠償請求を内容とする訴訟を提起したもので、原告は会社となります。論点が多岐にわたるため、裁量労働制の有効性についての判断部分のみ紹介します。
「「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは,①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,②入出力設計,処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計,機械構成の細部の決定,ソフトウエアの決定等,③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,その解決のための改善等の業務をいうと解されており,プログラミングについては,その性質上,裁量性の高い業務ではないので,専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。」
「本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは,システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに,C社は,下請である原告に対しシステム設計の一部しか発注していないのであり,しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると,下請にて業務に従事する者にとっては,裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また,原告において,被告Bに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは,原告がそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに,原告は,前記認定のとおり,F部長からC社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて,C社を訪問し,もっと発注してほしいという依頼をしており,営業活動にも従事していたということができる。」
「以上からすると,被告Bが行っていた業務は,労働基準法38条の3,同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず,専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない。」
裁量労働制の要件を満たしていても発生する残業代
深夜労働・休日労働
裁量労働制は、労働者の裁量のもと実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したとみなす制度です。そのため、あくまでみなさるのは労働「時間」であって、深夜労働や休日労働に対する対価を払わなくても良いというものではありません。
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