会社勤めをする中で、家庭の事情により退職届を提出したがその後に事情の変更があった、上司と揉め、その場の勢いで退職届を提出したがもう一度考え直したいといったケースがあり得ます。
一度、提出した退職届をなかったことにできるのでしょうか?
今回は退職届を撤回することができるかというテーマについて解説をしていきます。
退職届の法的性質
退職とは労働者の側から使用者との間で締結した労働契約を解消することをいいます。
退職届は労働者の退職の意思を書面にて明らかにするものですが、退職届を提出する状況によってその法的性質が異なります。
具体的には、①労働者からの一方的な労働契約解約の申入れ、②労働者から使用者に対する労働契約合意解約の申入れ、③使用者から労働者に対する労働契約合意解約についての承諾、の3パターンが考えられます。
パターンごとの退職届の撤回の可否
①退職届が労働者からの一方的な労働契約解約の申入れである場合
民法は、期間の定めのない労働契約の場合、労働者はいつでも労働契約解約の申入れをすることができ、解約の申入れから2週間が経過すると労働契約は終了すると定めています。
また、民法は、意思表示の効力発生時期について、意思表示はその通知が相手方に到達した時にその効力を生じると定めています。
労働者からの一方的な労働契約解約の申入れは使用者の承諾を必要とするものではないため、その旨の退職届が、使用者側の意思表示を受領する権限のある者(社長、人事担当者、工場長等)の手元に渡った段階で、労働契約解約の申入れが効力を生じることになります。
そこから、退職届が労働者からの一方的な労働契約解約の申入れの性質を有する場合、同申入れが使用者側の意思表示受領権者に到達した後は、使用者の同意がない限り撤回できないという結論になります。
②退職届が労働者から使用者に対する労働契約合意解約の申入れである場合
労働者と使用者の間の労働契約は双方の合意によっても解消することができます。
労働者から使用者に対する労働契約合意解約の申入れは、使用者がそれを承諾することで労働契約合意解約の効力が生じることになります。
どの段階で使用者が労働契約合意解約の承諾をしたとされるのかについて、裁判例は、人事部長や工場長が退職届を受理した場合には使用者が承諾をしたものと認め、常務取締役観光部長が退職届を受理した場合には使用者が承諾をしたものとは認められないとしており、退職届を受理した使用者側の人物が人事とどの程度の関係性を有しているかによってその判断を変えています。
そこから、退職届が労働者から使用者に対する労働契約合意解約の申入れの性質を有する場合、同申入れを使用者側の承諾権限者が受理した後は、使用者の同意がない限り撤回できないという結論になります。
③退職届が使用者から労働者に対する労働契約合意解約についての承諾である場合
②との違いは使用者が労働契約合意解約の申入れをしているという点です。
労働者については使用者側と異なり自身が承諾権者であることに争いはないため、使用者の労働契約合意解約の申入れに対応して、退職届を使用者側の意思表示受領権者に提出した時点で労働契約合意解約の効力が生じることになります。
そこから、退職届が使用者から労働者に対する労働契約合意解約についての承諾の性質を有する場合、同承諾が使用者側の意思表示受領権者に到達した後は、使用者の同意がない限り撤回できないという結論になります。
退職届の法的性質の決定について
労働者の提出する退職届が上記①と②のどちらの法的性質を有するものであるかはどのように判断されるのでしょうか(上記③の場合は状況から明らかであることが多いです)。
裁判例は、労働者から退職届が提出される場合、使用者の対応いかんにかかわらず使用者との間の雇用契約を終了させる労働者の意思が強固であることが客観的に明らかである場合(何を言われようと辞めますと労働者が主張するような場合)を除き、基本的には、労働者から使用者に対する労働契約合意解約の申入れの性質を有すると判断しています。
そのため、退職届の撤回については、基本的には上記②のパターンで考えるということになります。
特殊事情がある場合
ここまでは退職届の提出までに特殊事情がない場合について触れてきましたが、たとえば、懲戒事由がないにもかかわらず、使用者から懲戒解雇されたくなければ退職届を提出せよと迫られたため、やむなく退職届を提出した等の場合には、労働者の退職の意思表示は使用者による詐欺または脅迫により取り消すことができるとされており、そのような事情のもとでは使用者の承諾等にかかわらず退職届を撤回できる場合があります。
まとめ
今回は退職届を撤回することができるかというテーマについて解説をしてきました。
退職届の法的性質をいずれと解釈した場合でも、退職届の提出から時間が経過するとその効力が発生してしまう可能性が高まりますので、退職届を撤回したいと考えた場合にはすぐにその旨を使用者に伝えることが重要となります。
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