紛争の内容
依頼者は、小規模の建設業の会社との間で雇用契約を締結しました。その際、雇用契約書等は作成されず、給与や社会保険について、口頭でのみ約束がされるにとどまりました。
後日、依頼者の方が会社に対し、当初の約束どおりの給与の支払いは社会保険の加入を求めたところ、会社側はこれを認めず、もう仕事に来るなと一方的に申し向け、依頼者を事実上解雇するに至りました。
そこで、依頼者は、この事実上の解雇は不当解雇であるのではないか、弊所に相談されるに至りました。
交渉・調停・訴訟などの経過
弁護士から会社に対し、当該解雇が不当解雇であり、会社の従業員たる地位にあることの確認を求めました。ところが、会社側は、そもそも雇用契約を締結しておらず、業務委託契約であるから、「解雇」にあたらないと反論してきました。そこで、交渉にならないため、裁判所に労働審判の申立てを行いました。
労働審判での争点として、①依頼者と会社との法律関係は雇用契約にあたるかどうかという労働者性の問題、②会社は事実上の解雇すらしていないかどうかの問題、③契約書がないことから給与金額はいくらであるのか、という点が問題になりました。
①労働者性については、会社における依頼者の勤務状況を裏付ける詳細な事実を細やかに積み上げて、事実上雇用であることを根拠付ける事情を主張立証していきました。
②解雇の有無については、会社依頼者とも証拠がないため、当時のやり取りを依頼者から裁判所に対し、詳細に語ってもらいました。
③給与金額については、求人票データを事前に保管してから、地位確認請求を行ったため、会社がこれを隠匿することを防ぐことができました。そして、求人票の内容や、給与振り込み内容を主張していきました。
本事例の結末
裁判所は、依頼者と会社との契約が雇用契約であること、依頼者が解雇されたことを認め、客観的資料に乏しいながらも明らかになっている数字を基に給与金額を認定し、6ヶ月分のバックペイ相当の解決金の支払いでの和解を提示し、会社もこれを受諾することになりました。
本事例に学ぶこと
労働審判においては、労働者・使用者の代表等、当事者自身の役割が重大になります。弁護士は、あくまで申立てにあたっての書面作成・主張・立証を事前に固めておくことが主たる役割となります。労働審判時には、裁判所は、あくまで弁護士ではなく「当事者」の生の声を聞きたがります。これを踏まえ、事前に周到な準備をしたことで、依頼者にとって有利な判断を得ることができました。
弁護士 平栗丈嗣