紛争の内容

保険代理店の営業として勤務していたが代表者と意見があわず退職した、会社は残業代を支払っておらず、杜撰な労働時間管理を営業だから残業代は出ないという理由で正当化している、とのご相談でした。
会社の主張が法的な要件を満たすものか疑問を感じたため、まずは交渉事件の代理人として受任しました。

交渉・訴訟の経過

交渉段階で会社側にも代理人がつきましたが、保険営業という業務内容であるため、事業場外みなし労働時間制が採用され、残業代を支払う必要はないとの主張が繰り返されましたので、やむを得ず、訴訟を提起しました。
訴訟では、事業場外みなし労働時間制の適用要件である労働時間の算定が困難であることが争点となりました。会社は、保険営業という理由のみで最初から従業員の労働時間管理をすることを放棄している様子でしたので、その旨を主張するとともに、日ごとのスケジュール共有、LINE、日報等の複数のツールにより労働時間の算定は困難であるとはいえないと主張していきました。

本事例の結末

尋問が終了した段階で裁判所から請求元金の9割程度の500万円程度を会社側が支払うという和解案が提示されました。
その後、和解条件に関する多少のやり取りを経て、裁判所の提示する条件を基本とする和解が成立しました。

本事例に学ぶこと

保険営業等、客先での対応が多い職種について使用者が事業場外みなし労働時間制の適用を主張し残業代を支払わないというケースは多くみられます。
しかし、事業場外みなし労働時間制は、使用者に原則的に課されている、従業員の労働時間把握義務を免除するものですので、その要件は厳格に判断されるべきものです。
スマートフォン等の発達により外部にいる営業マンの行動を把握することは容易になりつつありますので、使用者が従業員の労働時間を把握することが困難であるという状況はあまり想定されなくなってきたのではないかと思います。

弁護士 吉田竜二